歩く
浅草寺までは歩いて6分。夜明けに行けば、その時間に来た人だけのものになります。観光バスが着くのは九時です。角を曲がると職人の町がはじまります。刃物屋さん、煎餅屋さん、それから四百年おなじ場所で商いをつづけている和菓子屋さん。二度、三度と通ううちに、店の人がすこしだけ早く顔をあげるようになります。
森小屋は、西浅草のひとつの門の先にあります。 通り過ぎるための場所ではなく、 暮らすための場所としてつくりました。 だから台所は、ちゃんと使えます。 壁も、きちんとつくられています。 坪庭には、商いのための理由など、ひとつもありません。
東京は、一度に押し寄せてきます。 浅草寺の人波。 秋葉原のネオン。 故郷とはまるで違う言葉と、リズム。 森小屋は、その東京の強さが少しずつほどけていく場所です。 名前の意味は、森の小屋。 —— 森、そして 小屋。 古い浅草の真ん中で、 ひとつひとつの住まいが、ホテルにはできないものを届けます。 ともに在るための、広さを。
浅草寺までは歩いて6分。夜明けに行けば、その時間に来た人だけのものになります。観光バスが着くのは九時です。角を曲がると職人の町がはじまります。刃物屋さん、煎餅屋さん、それから四百年おなじ場所で商いをつづけている和菓子屋さん。二度、三度と通ううちに、店の人がすこしだけ早く顔をあげるようになります。
扉を閉めれば、そのぜんぶが外側になります。部屋ではなく、家ですから。子どもはほんものの扉のむこうで眠り、一日の終わりには深い湯につかって、誰も起きていない朝の坪庭で、お茶を一杯。この順番が、何日目かに、自然と決まってきます。
ひとつ屋根の下、ひとつの食卓に、みんなで。数分のところに、1895年から卓上で炊きつづけているすき焼きのお店があって、個室の座敷を用意してくれます。ご予約は電話だけ、それも日本語だけ。その電話は、お着きになる前にかけておきます。
あとで思いだすのは、たぶん写真ではないのでしょう。思いだすのは、その日その日のほうです。どこへも行かなくていい朝。雨でずっと家にいた夜。そういう記憶にはいつも、あたたかいお湯と、古い木のかすかな匂いがついてまわります。
通りからデッキまで、七つ。歩けば四十秒ほどでしょうか。この建物で、いちばん長く考えたところでもあります。
西浅草三丁目は住宅地です。集合住宅がならび、自転車が数台とまっていて、目立つ看板はありません。建物は区画のなかほど、植栽の奥にひかえていて、あまり多くを語りません。二日もすると、その静かさのほうを先に見つけるようになります。
黒い木格子と御影石が、境界をつくっています。道はここまでで、そのさきへはつづきません。この地点から先、街は聞こえてはいても、もう立っている場所ではなくなります。
松、楓、紫陽花、黒い砂利。通りすがりに見るためというより、室内から眺めるために植えてあります。庭を「場所」ではなく「眺め」として扱う、日本の習慣です。雨の日に、いちばんよく見えます。
御影石を、昔ながらのやり方で一枚ずつ。歩くたびにすこしずつ静かになりますが、これは音響の話です。植栽と格子が、進むにつれて街の音を削っていきます。
坪庭には石燈籠が佇んでいます。この種の庭が昔からそうであったように。気づくのはたいてい二日目か三日目でしょうか。静けさに気づくのと、おなじ順番で。
歩くための庭ではなくて、眺めるための庭です。建物のかたわらではなく、内側に抱えています。青銅の水盤には一日じゅう水が落ちていて、誰も見ていないあいだも、その音だけはつづいています。
やがて、デッキに出ます。足もとは杉、空にひらけていて、二辺にベンチ。腰をおろせば、もう着いています。
ホテルではなく、家。
そして、そのために来た時間。
ここに演出はありません。素材は、東京のこのあたりでこういう建物がずっとそうつくられてきたから、というだけの理由で選んでいます。
デッキ、格子、建具。年月とともに、ごまかさずに灰色になっていきます。
石畳、燈籠、階段。一枚ずつ敷き、目地はあえて不揃いにしています。
水盤と、その筧。どちらも使われるためにつくられ、実際に使われています。
門、建具、デッキ沿いの壁。街を遮りますが、光は遮りません。
集合住宅としてつくられた躯体です。きちんと閉まる扉のある寝室。東京では、もっとあってもいいものだと思うのですが。
朝から夜まで、坪庭で流れ続けています。この建物が意図して立てる、唯一の音です。
お気づきになるより先に、申しあげておいたほうがよさそうなことを、そのまま書いておきます。
2ベッドルーム(定員6名様まで)と、3ベッドルームがひと部屋(定員8名様)。2階から9階まで。
隣り合った2室をご予約ください。どの世代にエレベーターが必要か、お子様はどなたと一緒か。ご一行の構成をお知らせいただければ、ご到着前に部屋割りを整えておきます。
みんな四時に目を覚まします。台所とケトルがありますし、スーパーは歩いて一分、コンビニは24時間営業です。最初の一週間、ホテルの一室よりアパートメントのほうがいい、いちばん素朴な理由です。三日目の朝には、たいてい六時まで眠れるようになっています。
レストランはありません。門から一分のところに、ふつうのスーパー「ライフ」があります。その朝にさばいたお刺身と温かいお弁当、そのほか必要なものはぜんぶ棚にならんでいて、夜中の十二時まで開いています。帰り道に夕食を買って、明日のおにぎりはお子さんに選ばせてあげてください。何日かすると、それが一日の終わりの決まりごとになります。
ベビーベッドとベッドガードはご希望に応じて。寝室のあいだは引き戸、洗濯乾燥機は全室に備えています。
全室に、シャワーとはべつに。日本式の、そしてこちらのほうがいいつくりです。
セルフチェックインです。暗証番号は、お着きになる日の朝にお送りします。
羽田から扉まで四十分ほど、成田からは六十五分ほど。直通の列車で、乗り換えはありません。荷物を持ったときの全行程は、アクセスのページでご案内しています。
旅館業許可 8台台健生環き第10045号 — 旅館・ホテル営業(台東区保健所)